ひさしぶりに、’希望’を感じられる本を読みました。

タイトルからして素敵、

 

素敵なはずですね。著者であるブレイディみかこさんが、このタイトルはこの本のもう一人の主人公である息子さんが、なぜか小学校からDowngradeして通い始めた元底辺中学校で、さっそくレイシズムの洗礼を受けて腐っていた彼の、

 

殴り書きのメモだったのですから

 

この息子は、’親はなくとも子は育つ’の格言道理というか、よくできたそしてずいぶんと成熟したお子さんです。

 

三島由紀夫の’午後の曳航’という話がありましたが、中学生ぐらいの男の子、つまり思春期直前の男の子って、一番洞察力が鋭い感じがあるのですが、その物って感じです。

 


(これが女の子だと、肉体的に男の子に追い越される直前の小学校4年生ぐらいが、同質の精神を感じますが。)

 

さて、ブレイディみかこさんは、こういう海外での生活を背景にした手記を書く方にしては珍しく、いわゆるインテリではありません。

 

結婚したイギリス人の旦那さんも、当初は銀行員だったもののリストラされてトラックの運転手になったそうですし。

 

さらに、お子さんを生んだのはIVFで、しかも40歳過ぎ。

 

私個人は、アメリカに来てからはマニアのように学位を集めてますが、(BS、PHD、MBA)アメリカに行くまでは高卒でしたし、Bobは大学を終了してません。

 

まあ、日本の実家は父が割と成功した中小企業主だったので、金銭的に見ればいわゆる親リッチということになりまあすが、あまりにアメリカに来るまでの人生を拗らせていたので、いわゆるまっとうな日本の中流へ帰属していたという意識は全くなかったのです。

 

それでも、どうして彼女自身がいろいろな意味で優れた環境で会ったカソリックの私立の小学校から、成績的には全く問題のなかった息子さんを、継続の同じカソリックの中学校ではなく、この元底辺中学校に進学させたのかは、かなりの謎でした。

 

アメリカの状況は全く同じではないですが、ある程度まではほかの欧州国どこよりも、イギリスの状況にたぶん似てます。

 

そして、カソリックの私立というのは、トップのプレップスクールに比べるとずーっと授業料は安く、何らかの理由があって公立に子供を通わせたくないというところまでとても似てます。

 

ただ、元底辺校ということは、アメリカの場合たいていは圧倒的に黒人が多い高校のことをいい、そこはPoor Whiteが圧倒的に多い、この息子さんが通う学校の状況とは違う。

 

で、私にとっては、一体カソリックの私立のどこがそれほど心の底で引っかかっていたのはっきりさせたいと思いながら読み進むことになりました。

 

その一つの直截的な答えは、終章一つ前第15章、’存在のたえられない格差’、この中に出てくる’前後格差’という表現に集約されていると思います。

 

私立って、学校のイメージにそぐわない生徒を見捨てる

 

この本で印象的に描かれるのは、一つのクラスルームでありながら、先生を筆頭に熱心に勉強する生徒たちと、最後列に陣取り勉強とは全く関係ないことをしている一団との対比です。もちろん適応者たちは先生を含め、後列集団をガン無視。

 

これはもうアメリカでも同じ。で、ちょっとずれますが発達障害の子供を持つとこのことを思い知らされるみたいです。基本、普通の私立は発達障碍児にものすごく冷たく、サポートなんてありません。確かに発達障碍児などに特化した私立もありますが、そういうところは死ぬほど高く、症状がある程度以上重く政府の援助が受けられる子供ではないと余程裕福でないと無理です。(年間600万とかですから。)

 

これと対照的なのは、いろいろな意味でもっと恵まれた私立校に差をつけられながらも、子供たちが、そして先生たちもぶつかり合いながらそれでもどうにか一緒に未来を目指そうとしているのが息子さんが通い始めた元底辺校なのです。

 

この問題の章で、’前後差別’と並列して語られるのが、息子さんの小学校時代の同級生の女の子の家出です。

 

愛の反対は憎悪でなく、無関心

 

ということを思います。

 

さて、ほかにもとにかくこの息子さんと体験と、親子の対話がもう泣きたくなるほど感動的です。正直、ブレイディみかこはこんな息子さんに恵まれて運がいい。あと、40過ぎて子供をもつということは、たとえ体力的にはいろいろきつくIVFをはじめとしていろいろな医療サポートが必要な反面、

 

精神的には親として生きる準備が出来ている。

 

だって、わざわざいい歳して、下手するとお金もかけて妊娠しさらに老後をたくわえとバランスを取りながら子育てを始めるのです、普通覚悟が違います。

 

年配の親は、私子供と一緒に成長することができるぐらいの大人にはなっていると思います。それが、私の周りにいる年増の親たちをみていてPositiveに感じられること。

 

そういう親と一緒に育つ子供が、親に白髪があるなんて嫌なんて馬鹿なことは絶対思いません。

 

とにかく久しぶりに超Positiveな読後感だったので、ちょっとAmazonでレビューチェック。まあ、圧倒的に星、4や5が多く、馬鹿な星の少ないレビューはどうでもよかったので巣が、一つだけ、え、これはやばいでしょうというレビューがありました。

 

このレビューを書いた人も、イギリスでイギリス人と結婚し、お子さんを設けたそうなのですが、今は旦那様をイギリスに残したまま、お子さんの教育のために日本に戻ってきているというのです。

 

ちょっと引用します。

…でも、皆さんが一度イギリスに住んであからさまな人種差別にあったと仮定して…同じことを子供にも敢えて経験して欲しいと思うだろうか?… 私は、子供がプライマリー(小学校)に入る前に、日本に本帰国した。…やはり日本に帰ってきて良かった、と。イギリスは素晴らしいとか、イギリスに倣え的エッセイは過去にも沢山出版されてきたが、私は強くその意見一つ一つに反対する。

 

まず、ブレイディみかこさんは、イギリスがいいといっているとはとても思えない。ただ、日本では隠蔽されたまま思いがけないスピードで進んでいる格差と貧困化が、イギリスではもうずいぶん前から赤裸々な問題になっているということ。

 

そして、日本が安倍政権長期化を許している一方で、イギリスはBrexitという、反グローバリゼーション主義の台頭というかなり熾烈な形で、この亀裂を噴出させているということです。

 

アメリカの場合は、トランプが大統領になったという異常事態ですし、フランスなら例の黄色のベストを着た人たちのストライキ等など。

 

日本人はどこまで、何事もなくやり過ごせると思っているのだろう。

 

私、たまたまこのミステリーを飛行機の中で読むまで、日本でいかに生活保護を受けるのが大変か、さらに本来なら生活保護を受けるべきひとたちが、受給できず

 

餓死している

 

という現実が、この日本に存在しているということを知って、本当にショックを受けました。

 

いつもは、社会派ミステリーってどちらかというも苦手なのですが、これは心からおすすめです。時によっては、ノンフィクションより、フィクションのほうが知るべきリアルを鮮烈に描き出してくれるものです。

 

 

とにかく、資本主義は暗黒化しているのです、ただブレイディみかこさんと息子さんの対話は、私に久しぶりに希望というものを垣間見せてくれました。

 

あと、もう一言、この息子さんが中学校として選んだのは、

 

元底辺校であって、底辺校ではない

 

そこは微妙かつ実は非常に大きい違いです。

 

娘の言っている学校は、都市部の公立高校です。ただし、同じ公立でもMagnet Schoolといって、中学までの成績が良い子を集めた高校の一つで、さらにSTEM(Science Technology, Mathmatics, Engineering)と呼ばれる基本理科系を目指す子供たちの高校です。ですから黒人が70%ですが、ほぼ全員が大学に進学します。

 

そして、アメリカの場合、公立は完全無料です。さらに割と簡単な書類の提出で、ランチ場所によっては無料の朝食まで受給できます。

 

システムだけ見たら、アメリカのほうがよほど公共教育のお金をかけています。それでもアメリカの貧困層が固定化しやすいのは、アメリカの場合は人種と貧困層の重なりが強く固定化しやるいから。そして多分イギリスの場合は、長期にわたる階級差が固定化しているからでしょう。

 

日本戦争でよくも悪くもこういう戦前の階級がほぼ破壊されました。でも、今着々と固定化しやすい貧困層が生まれつつあるのです。

 

そういう時、私たちは誰に未来を委ねますか?ブレイディみかこさんの息子さんみたいな人ですか、それとも、この’自分の子供を日本に連れ帰った’という母親に育てられる人でしょうか?

 

私は、こんな飽食の時代に生活保護すら受けられず餓死者が出るような日本は望みません。

 

 

 

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA