好きなBL漫画家さんはたくさんいますが、純粋に絵だけに限ると私にとっての一番は宝井理人さんです。
これ持ってますし、
Key Holder これですし。
よく考えてみると結構痛いBL丸出しなのですが、まあアメリカで使っているのでそんなにひとの目を引くことはありません。
これ結構大きいところが気に入ってます。ちなみに私は日本に年2回もどるので、そのときに秋葉原の、アニメイトガールズステーションで、いろいろ買います。
宝井さんの線はすべからく美しく色っぽいのですが、なかでも首から鎖骨にかけての色っぽさというのはもう怖いものがある。
さて、宝井さんは’テンカウント’が有名ですが、この少し前に書いたのが、今回レビューする、
大学生版、Boy meets Boy的なおはなしです。三巻完結ですが、いわゆるSex Sceneが第三巻まで登場しないということで、最近のオメガバース好きの若い読者には評判が今一のようですが。
ちなみに、私はオメガバースあまり好きではありません。なんというか、BL漫画のTL漫画化みたいな感じがして、今一です。
ともかくこの作品は、今どきの少女漫画よりも、ずっと儚げで繊細な印象が最初から最後まで続きます。
まあ、絵がエロいときでもすごく繊細で綺麗なトーンがゆるがないこともあります。
始まりは、いわゆる’チャンスエンカウンター’
いわゆるノンケでかなり天然で、学業はすべて軽々とこなし女子にも人気、で一応彼女もいる法学部3年の有川。その彼が、内向的な農学部3年の御崎が、運んでいた鉢植えをとりおとしたところにいきあわせたことから二人の物語が始まります。
有川は御崎が取り落とした鉢植えを拾うのですが、その時御崎が首にかけていた女物のガラス製の小さな花のチャームに目を惹きつけられます。
有川は、自分のかんじるまま、’女物でも、男物でも似合えばいい、似合っている’と初対面の御崎に告げるのです。
そらに、またまた偶然、
今回有川はコンタクトがあわず、実は文字通りぶつかってしまった御崎が見えていない。
無邪気に顔を近づける有川をここで御崎は意識し始める。有川とことなり、御崎はすでにここで彼が以前鉢植えを拾ってくれた、やたら人懐っこい学生であることに気がついています。
有川は、この時そもそも一番最初に目を止めてしまった、あの花のペンダントを拾ってます。でもこの時点で彼は持ち主が誰だかわからない。
御崎という名を知っているようないないような不可解な感覚。
何より、彼は魅了されてしまう夢を繰り返し見ているような気がすると感じ始めます。
有川という青年は、いままでスッキリと割り切れない感覚や存在に自分の内面を侵されたことがない。
法学部という設定も、深く考えずに女子に告られてそのまま普通に付き合ってしまう性格もすべては、得体の知れない感情によって混乱に陥れられたような経験がまったくないからこそ。
ただ思うのです、もしかして自分はイメージとしての誰かに惹かれているらしい。そしてその誰かこそが、この花のペンダントの持ち主ではないのかと。
この作品はいろいろな形で’花’のイメージを多用していますが、有川の恋心はまるで花の蕾がふっくらと解けていくようにたよりなくでもとても愛らしい。
さて、ひょんなことから、有川は御崎という実在の人物を突き止めます。御崎を農学部で見つけた時に、深く考えずに話しかけるシーン。
この時点まで、有川は御崎にゲイの噂があることを知りません。まあ、彼にしてみれば少なくとも意識的には、’不思議な夢を見る理由の人物’を見つけたということだけなのですが、彼が花のペンダントについて御崎に尋ねると、御崎は頭から否定するのです。
花のペンダントは御崎のものです。ただこれはそもそも彼が初めて好きになった川崎というもと家庭教師だった男のプレゼントでした。
御崎にとってもはや川崎の存在は混乱と苦痛の元でした。唯一の肉親であった祖父の死のあと、寂しさがきっかけとなって川崎に対し思慕をつのらせたのです。 が、川崎は一旦うけいれるような態度を示しながらも、ゲイである自分を受けいることに怯え、慌ただしい婚約という形で御崎を拒否し傷つけていました。
さらに、その後も川崎は何かと御崎に干渉し、花のペンダントはあたかも川崎が御崎に押し付けた軛と化していたわけです。
ここで透けるのは絡みつくつるのようなイメージ。
さて、本来なら個々で途切れても良かった有川と御崎の関わり合いは、御崎の研究室の教授のはからいで逆に進展することになります。
有川が御崎の研究の手伝いとしてあらためて紹介されるのです。
有川は結果的に非常に優秀な御崎の助手役をこなしますが、相変わらずの天然ぶりで御崎をゆさぶります。でも、その一面彼女のいる有川は自分と違う人間なのだとも。
そんな二人の関係をさらに変質させたのは、有川のちょっとした衝動がきっかけでした。
‘河原に行こうよ’
と有川に連れ出された御崎は、いつの間にか河原での植物採集にひきこまれていきます。
気がつくと、有川はお昼寝していました。
第一巻目の表紙が此のシーンです。
面白いのは、いままで花のイメージとダブラされることの多かった御崎ではなく、有川のほうがまるで草に埋もれる花のよう。
それに見惚れるのが御崎、御崎はあらためて有川にすでに恋している自分を自覚し、ふとかれの名前を顔を近づけながら呼ぶ。
と、次の瞬間多分夢の続きのままに有川は御崎を抱きしめ、口づけします。
此のキスシーン綺麗です。
個々から少しずつですが、有川が自分の御崎に対する気持ちに気づいていきます。
それを暗示するのが、有川が誰か別の人間に恋していることに、有川自身よりも前に気がついてしまった、いま此の時元カノになろうとしていたGF.
彼女の予言どおり、有川にとって自分の恋心に気がついていく過程は決して楽しいものではなかった。自分はもう明晰さのなかで安寧を貪ることができない。
有川が御崎に自分の恋心を宣言するきっかけは、皮肉なことに川崎が二人の関係に介入しようとしたことでした。
ただ、有川の告白はとても異色です。
なぜ、’誰よりも一番好きだよ’ではなく、
’誰よりも一番俺を好きになってよ’なのでしょう。
有川はずっと御崎のそばにいたいと思うようになった。だから御崎が自分のことを好きになってくれたらずっと一緒にいられる。
有川の恋心は花のようにただそこにあり、むしろ御崎によってたおられることを欲している。
いつも思うのですが、BL漫画の傑作ほど、いわゆる受け攻めの間が物理的な役割分担を超えてどんどん曖昧になっていきます。
御崎が辛かったことはとてもわかりやす。いってみればパターンのようなものとしてわかりやすいのです。
でも、有川のそれは彼自身にとってそれまでのすべてを破壊するような決定的な情動です。
だから彼は懇願する。
ちなみに、此の二人の恋物語の後日譚は、すべからく共生する花々のように初々しい。いつまでたっても初めての日のような恋の花を咲かせ続けるのは、やはり花だけが知っている秘密ゆえでしょうか。