今年最初のBL漫画レビューです。これはこの作家さんのプロデビュー作ですが、いまは出版社が変わったのか改訂版が出ています。
実はこの作家さんのごく最近の漫画をRentaで無期限貸出しして、ふとこの作品のことを思い出したのです。
一口でいうと、コレは美人受けによる、まあ基本年下のノンケを誘惑する物語なのですが。とにかく微妙な駆け引きの描き方が、
うますぎる。
BLからは外れますが、たとえ異性でも年下の男を落としたいなんて思ったことがあるのなら、コレすごく参考にもなります。
物語は、お気楽イケメンの大学生二条が、コンパ先の飲み屋のトイレで、個室でことに及ぶゲイのカップルの声を聞いてしまったところから始まり、その時彼はそのうちの一人の姿をくっきりと目に焼き付けてしまうのです。
もちろん、意識的には’ホモなんて’と反応し、やはり自分は女の子がいいと自分に確認するわけですが。
この時点で二条はすでの、彼(千鳥)を意識してしまっている。
二条は、すでに本来ノンケであるはずのゲイの千鳥に対して抱くはずの嫌悪感を抱いていないのですから。
実は千鳥は、二条が通う大学の学務課に務める職員であることがほどなくわかります。ますます千鳥を意識する二条。
まあ、二条はまず千鳥のことを、別世界のひとではなく、普通に生活しているごく’まともな人間’として認識します。
これって、結構大きいFirst Stepです。
つまり、’気持ち悪い’とは思わないわけですから。
決してそちらには近づかないノンケと、その境界線を踏み越えてしまうノンケとの最大の差は実は個々なのです。
現実のノンケの男性はほぼ、ゲイとわかっただけで線引しますし、私達腐女子をものすごくいやがる男性はまだ数多いので。
次は、二条がはじめて千鳥の微笑みを見て、可愛いと思ってしまうシーン。
まあ、男が誰かを好きになる最初のステップは2つしかありません。
それは、
可愛いかエロい
この後、二条は千鳥と距離を詰めることができずに、次第に思いをつのらせていきます。ノンケであったはずなのですが、性別にかかわらず、惹かれるものがある存在とない存在を比べ始める二条。
この辺になると、好きになった女の子を追いかけ回す男の子、それも高校生レベルぽくて二条は可愛いですね。
見てももらえず、
声をかけても聞いてもらえず、
言葉で応答してもらえない。
そしてついに二条にチャンス?が訪れる。
土砂降りの雨の中、終電を逃した千鳥を見つけた二条は、思わず彼をお持ち帰りしてします。
次のシーンは、千鳥がはじめて二条に、彼の視線をずっと意識していたことを告げるシーンです。
この右上の小カットは、回想です。つまり二条がはじめてゲイである千鳥を行為の直後に目撃したシーン。
千鳥はつまり、二条が最初から自分のことを欲望を持ってみていたと指摘しているわけです。
ただこのシーンも、ゲイのない直面告白ではなく、千鳥の一夜の相手からの電話コールをからめての演出。
もちろんこの後二人は初めて性的な関係を結びますが、正直二人の温度差がとてもリアルな描写で、凡百のBLSexシーンとは雲泥の差ですね。
ただ、二人の関係が始まるのは開けた朝ではありません。
千鳥はダメ押しをするように、もう一度二条を焦らします。
さて、この先はもろのネタバレになりますので、それが嫌な人は漫画を読んでからレビュー読み返してください。
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’蛇喰い鳥’は3 ACTとなっており、さらにその後日談’完食’が最後に続きます。
そして、ACT 2の終わりで、実は本当にこの恋を仕掛けていたのは、千鳥の方だったことが明らかにされます。
それに対して、ああ’喰われちゃったんだ’と感じる二条ですが、この告白の後軽くすねて微笑む千鳥を見て、やはり二条は可愛いと思ってしまう。
二条は確かにすっぽりと千鳥がかけた恋の罠にハマってしまったのです。
ACT 3では、千鳥のバックストーリーが語られ、それはまあBL漫画によくあるパターンなのですが、問題はそこへの持って行き方なのです。
小物を使っているのですが、そのやり取りがまあいわば軽い痴話げんかぽくて、千鳥さんがすねたりするのですが、確かにこういうところってたとえ二条じゃなくても、
’ああ、ますます可愛い’
と思ってしまうのでしょうね。
結局’心の広い’ノンケが、千鳥のような美人に落ちてしまうのは、そこまで思ってくれる、求められることの心地よさと、性的な魅力が分かちがたく結びついているからだと思います。
身体の関係としての千鳥は受けでも、感情的にリードをとって二条を翻弄しているのは千鳥ですから。
最後に一つ注意があります。
くれぐれもゆっくり読んでください。
一話ごとの長さはたかだか30ページちょっとしかないというのに、とにかく丁寧なコマ割りとちょっとしたDetailが、きちっと書き込まれているので読み落とししがちです。
まあ、何度も読み返す度に発見があるとも言えますが。こうやってレビューを書くためにシーン選びをして、また見落としを見つけたくらいですから。