久しぶりに”天使禁猟区”を手に取ったのは、引っ越しがきっかけです。
今までの3分の一以下の家に移ることもあり、そして何より先に進むために身軽になりたかったこともあり、とにかく持物を減らしていきましたが、その中でも今までほとんど手をつけなかった漫画(90%は少女漫画)のコレクションにも手を付けました。
萩尾望都も、高口里澄の’花のあすか組’も、山岸涼子のホラーも、のだめカンタービレも、全部全部ワシントン郊外の日本語図書館に寄付して、手元に残した作家さんは二人だけです。
一人は、私が日本で一番敬愛しかつ戦後日本の最高のクリエイターのひとりと考える大島弓子の後期(彼女の綿の国星が賞を取って認められた後、かなり疲弊していた中で生まれた奇跡のような作品たちです。)の短編集数冊。
そして、もうひとりは、私がアメリカに着た後もう一度私を日本の女性向けサブカルの一つの流れに結び付けなおしてくれた、私が最も偏愛する作家、由貴 香織里
手元に残したのは、
- 天使禁猟区
- カイン伯爵シリーズ全巻 (これは、世紀末のロンドンと、nursery rhymes)
- 妖精標本 (これはもちろんケルト系の妖精譚)
- ルードヴィッヒ革命 (これは、歪んだFairly Tale)
の4シリーズですが、なかでも天使禁猟区との出会いは、本当に信じられないほど偶然と私の少女漫画絵の偏愛のたまものでした。
私は、アメリカに来て大学、そして大学院と進む中で、こう自分の中に抱え込んでいる子供、あるいは妄想過剰な少女趣味のような部分を押し殺してきました。それが、ひょんなことからBaltimore に住まいを移しました。そして、そのBaltimoreで、1999年に、今では全米中でひらかれる、基本日本のアニメとコスプレを中心としたコンのなかでも、東海岸一の規模に膨れ上がったオタコンが、ここのコンベンションセンターで初開催されたのです。
この辺のことは、こちらにもっと詳しく書いてありますので、よろしかったらどうぞ。
汚超腐人と呼ばれたい(連載)
さて、当初いやいや連れていかれたくせに、私はすっかりはまりました。ひとつにはアニメの内容が私が昔知っていたものに比べて、ずーと私の琴線に響くものが増えていたこと。そしてもうひとつはディーラールームでのショッピング。なかでも日本の漫画の単行本が出に入ったことがとても大きかった。まあ、漫画以外にも今から20年以上前でしたので、日本のアニメや漫画系のキャラものとか簡単に手に入る時代ではなかったので。
で、出会いは、この1999年ではなく、翌年満を持して、3日間全日パスを予約購入したうえでの2000年のオタコンでした。
アジア系の女の子だったと思います。
黒く長い髪、白い貫頭衣のような衣、そして一番目立ったのは
背中に背負った3枚の羽根でした。
私思ったんです、これは絶対私のツボに完全にはまる世界観の作品からきているって。
彼女は英語しかしゃべらず、教えてくれた作品名も英語、
Angel Sanctuary
そして、キャラの名前は、
Alexiel
2000年て、OVAのビデオが出た年でもありました。で、まずはこの本当に最初の数巻カバーしているだけのOVAのビデオを買い込み、さらにすでに顔なじみになりつつある漫画やさんで、(なんせ私漫画の大人買いしてましたから、)原題が天使禁猟区であることをつきとめ、
7巻から14巻までまず購入して、読みました
だから私は、刹那が廃竜に乗って飛んでいくところから、天使禁猟区の世界に入り込んでいるのよね。
天使禁猟区をいくつかの言葉で断片的に表すとしたら、
- 兎に角複雑怪奇なプロットで、
- メイン以外のサブプロットも書き込みが凄まじくて
- ペダンチック(衒学的)で、
- ものすごく登場キャラが多くて (あの頃一番盛り上がってきた、日本の世紀末の耽美ロックジャンル、ビジュアル系のビジュアルと完全に共鳴してましたから。すごかった。)
- とにかく、耽美で攻めていて (もう、令和の感覚だとちょっと臭いかもと作家さんが自主規制しそうな、ネーム満載)
- 耽美は、美形キャラの書き分けにすごく力がはいっていて (ちなみに、私の一番のお気に入りは、Madhatter,べリエルでした。あ、この方は堕天使、悪魔のひとりです。)
- 同時代的には、完全に20世紀末の空気いっぱい
- そして、見事なまでにグロいシーンがきちんと書き込まれている
- 最終的に作品として、もう力業で一つにまとめている
本当にこんな漫画、空前絶後なんです。
あ、一つ面白いこの作品がらみのエピソードを紹介します。あの頃はまだみんなビデオを一つ買ってみるという手間とお金のかかることを、アメリカのアニメファンはやっていたので、当然アニメ好きの知り合いで集まって鑑賞会をやるなんてことを、時々やってました。で、ある時私はAngel Sanctuaryを見せたのです。ビデオ一巻目が終わったところで、もうあきれるほど男女の空気が違いました。女の子たちは普段は、日本の基準で行くとあまり女の子ぽい子一人もいなかったのですが、全員この作品に釘付け。男性はすごく入り込めなくてとまどって、でもまあ、人数的には半々でしたが熱気で押されました。
少女漫画のなかで、一番、大衆小説最凶の奇作、
小栗虫太郎の黒死館殺人事件に近い
作品です。私は、天使禁猟区のせいで、天使学についての本を探し回りましたから。
あ、はっきり言って、今のラノベの読みやすさにすっかり慣れてしまった人にとっては、結構よ見づらい漫画というコトになってしまうのですね。
で、タイトル後半の話題に関連してくるのです。
さて、この投稿をするにあたって、事実確認のたまにGoogleしていたら、なんと
4月から、天使禁猟区-東京クロノス という新作がリリースされていたのですね。いや、一応すぐAmazonで買って読みましたけど。
うーん、なんというか無理に今のラノベのノリに合わせている感がして、正直
おばあさんは悲しいなあ
で、Rentaだ一応全部読めることに気が付いて、天使禁猟区のレビューとかチェックしたのですが、3.7とかで今一。で、もっと細かく見ていくと、完全に高評価とぼろ評価に分かれる。
で、ぼろ評価がこんな感じ、
’文字が多すぎるし、小難しさもあいまって、よく理解できず意味不明。何を伝えたいのかよくわからない”
あ、そうか、それなりに咀嚼が必要な作品を楽しむための努力というものが、身につかなくなっているのですね。
私、よく言うスマホが脳に悪いとかいう言説は、あまり気にしないのです。
ただし、コンテンツを評価するにあたって、そのGatewayがスマホだけになるのは、すごくやばいと思うのです。
だから、
売るために、どんどん薄い作品ばかりになっていくWebtoonは亡国の代物だと思ってます
こういう作品を中心に育ってしまうと、ほんの20年前の、少女の妄想を世界規模に広げたバトルファンタジーともいえる、こんな天使禁猟区を、
小難しいといってしまう
楽しめないのですね。そういう小難しさを。
そういえば、由貴 香織里の作品て、偏愛に満ちてはいる反面、赤裸々な性愛への言及は徹底的に避けているところも面白い。その補償ともいうべく、少女漫画にしてはかなりきつい暴力描写が最初から多かったし。
でも、今の一番売れる漫画は、
薄い性愛描写の多い恋愛ものでしょう (うすエロともいう)
オタキング、岡田斗司夫の動画の中で、’進撃の巨人’をつまらないという同級生にどんな漫画を勧めればいいかと尋ねた女子高校生の話がでてきたけど、うーん、今やそういう時代になってきているのね。このとき彼は、その同級生はあなたと違ってバカになってしまったのであきらめなさいと言っていたのですが。彼は、少女漫画とフェミニズムが分からないから、忖度あるけど、それでももう、こういう状況を認めないとまずいのでしょうね。
どうすればいいのだろう。
ちなみに、カイン伯爵シリーズが由貴 香織里の作品の中では、一番評価が高い。これは裏BLというか、黒執事より早い執事ものというか、(あ、私は黒執事よりずっと好きです。)そういう作品なので、読み続ける人はやはり、準腐女子という人が多くて、ということは、薄いエロ中心の恋愛ものに耽溺する層よりは、読み込むタイプが多いというコトだと思いたいです。
昭和の少女漫画の話を、いつかまとめようと考え始めてから、ずいぶんと時間がたつけど、やっぱり早いところ予定と立てて取っかからないとと反省しました。